今から10年ほど前の2006年8月26日、英語圏の音楽制作機材関連のフォーラム(掲示板)で有名なGearslutzというサイトで”COMPRESSION IS FOR KIDS!!!!”(コンプレッションはお子様向け)というスレッドか立てられました。
このスレッドを立てたのはBruce Swedien(当時72歳)。
彼はMichael Jacksonの録音やミックスを数多く担当した有名なレコーディングエンジニアで、当時この掲示板に「降臨」していて自分の考えを書き込んだり、皆の質問に答えたりしていたようです。
自分の事をバイキングと言ったりピョンピョン跳ねるアイコンを多用したりして楽しんでいたようですが、他のスレッドでダイナミックコンプレッサーに関する話題を見かけたBruceが前述のスレッドを立てたのですね。
「コンプレッションを使うミキシングはアルコール無しのパーティーみたいなもんだ!コンプレッサーはお子様向けだ!」と始まるその書き込み内容は熱く色々と語っています。
全体を上手く翻訳するのが難しい(翻訳家ってすごいね)ので、超ざっくりと要約すると…
めっちゃ端折ってるしエモーショナルインパクトとかいう表現を意訳したりして怪しい部分はあるけど、おおまかにそういった事を主張していると思います。(多分…違ったらごめん。原文を読んでね)
ちなみに「トランジェント」っていうのは、なかなか定義の難しい単語ですがBruce Swedienの説明によると…
とのこと(多分)原文はこちら→ Transient Response – One of my favorite subjects…..
ある意味極端なこの主張に対する反応は「その通りだ」と肯定する人や「理論的には正しいだろうけど、コンプの掛かったクールな音もあるからどうなんだ?」という懐疑的な人など賛否両論でしたが、権威のある人物の発言によるバイアスもあるのか概ねポジティブな反応でした。
かくいう私はこのスレッドを見つけた時(だいぶ後年になってからです)コンプレッサーをそれなりに使って、そこそこ満足できるミックスが出来るようになってきたと思っていた時期だったので、この主張は「最近の若者は○○」という類いの主張のような旧世代の人の不平不満だと感じました。
でもモノは試しだという風にも考えて、その時初めてコンプレッサーを全く使わないミキシングに挑戦してみたのですが…出来上がったミックスに驚愕しました。
今までで一番クリアでヌケが良くてローエンドもしっかりした音になっていたのです。
それまでの世界が変わった瞬間でしたね。この体験以降、勝手にBruceのことを「心の師匠」だと思ってます笑
で、それ以来ミキシングで極力コンプレッサーを使わないようにする修行を開始し、「なんとなく」コンプレッサーを使用する癖を完全に排除することに成功しました。
今では全く使わないというわけではありませんが使う箇所はごく僅かになって、ドラム等のトランジェントが鋭い素材の単体にはまず使うことはなくなりましたね。
このコンプレッサー不要論を信じるか信じないかはその人次第ですが、一度騙されたと思ってコンプレッサーを使用しないミキシングを試してみても良いのではないでしょうか?私のように世界が変わるかもしれませんよ。
ミキシングにルールなんてないですが、あまりにコンプは必須だと紹介する人が多いですしね…
まあ今とても有名なロック系のエンジニアのChris Lord-Algeなんかはバキバキにコンプレッションするタイプだし、ノーコプレッションな趣向は日本どころかアメリカや海外でもそんなに支持されていない気がする極端な主張ですが、個人的には気に入っているのでブルースおじいちゃんの趣向を勝手に受け継いでやっていこうと思っています。
大人になりたいので笑
(終)