リバーブの種類と歴史をザックリ振り返ってみる

ミックスの時に使うエフェクターの中でEQやコンプに次いでよく名前を挙げられるのがリバーブ

略さずに言うとリバーブレーターで、主に録音された素材に残響音を与えるためのエフェクターです。

個人的にミックスにおいてリバーブを使いまくるほどに大好きなエフェクターで、ほぼ毎回もっとリバーブを下げてくれと言われます笑

それでも飽きずにリバーブ大好きスタイルを崩さない(いや、要求されたらちゃんと下げるけど)ワタクシが今回、どのようなリバーブがあるのかをザックリと年代順に紹介してみたいと思います。リバーブ広報活動です。

世間の皆さんにもっともっとリバーブをバシャバシャかけてもらいたいのでヨロです。

エフェクターとしてのリバーブが登場する以前の録音作品

リバーブレーターは録音作品が登場した最初からあったわけではありません。

1800年代末から1920年辺りまでの初期の録音音楽は1つの集音器で媒体に直接録音するような方法だったので、リバーブという「エフェクター」は存在せずレコーディングする場所の音響環境によって生まれる響き(=反射音)のみでした。

しかも録音機器のS/N比も悪く残響音を細かく再現出来るほどの性能が無かったので、録音作品において残響音を後から与えるという発想が出てこなかった…というかまずは録音/再生の能力を高める方が先だったのでしょう。

何しろホーンみたいな集音器に向かって音を出して空気振動で溝を刻むっていうラディカルな方法だったので、直接音に比べて繊細な残響音は不利ですよね。

なのでこの時代の録音をYoutubeとかで聴いてみると、残響というよりは直接音と反射音(残響音)が既に一体になった音色が収録されている…という感じがします。

1985年辺りのDickson Experimental Sound Filmという映画で見られる録音のシーン。電気録音でのクローズドマイクの音と違ってアーリーリフレクション的な音に聴こます。ホーンの中を反射してから溝に刻まれるからかな?

おそらくアコースティック録音時代の最後の方である1924年の録音。結構S/N比も改善され空間を感じますね。(もしかしたら投稿者が後からノイズリダクションしてるかもだけど笑)

その後1920年代中頃辺りにエレクトリック録音が登場し、どんどんマイクの性能が上がったりミキサー等が出てくると「アンビエンスマイク」を使うなど工夫するという人が出てきたそうですが、まだ「エフェクター」としてのリバーブは登場していません。

1930年台のジュークボックス等がメインの再生環境でも、まだまだアンビエンスの響きが上手く再生出来ないかったことからか、その時代は基本的にドライな録音作品が主流となっていたようです。

エコーチェンバー

そんなこんなで史上初めてのエフェクターとしての「リバーブレーター」が登場したとされるのが1947年。

Universal Audioの創始者であるBill Putnam Sr.が自身のスタジオのトイレ(たぶんユニットバス)にスピーカーとマイクを設置して、集音した音をミキサーでライブレコーディングに混ぜるという手法を始めたのが、史上初めて意図的にリバーブを人工的に作った例との一つだそう。

いわゆるエコーチェンバー(Echo Chamber)と言われる手法ですね。響きを与えるだけでなく、響きの量を任意で変えられるところが革新的だったんじゃないですかね〜

ちなみに気になるそのサウンドがコチラ

途中で響きを与えたり少なくしたりしてエフェクティブにリバーブを使用してますね。しかし美しい響きだ…70年前の録音とは思えないですね〜

最初からエコーチェンバー用に部屋が作られたようなレコーディングスタジオが出来る前は元々ある部屋を利用することが多く、反射のしやすいタイル貼りのトイレ/バスルームだったり、コンクリート打ちっぱなし的な階段を使っていたようです。現代でも非常階段とか使えそうですよね。

トイレをリバーブ用に使用する際はドアに「レコーディング中」みたいな張り紙が付けられたりしたそうな。

でもレコーディング中にトイレが使われちゃうこともあったみたいです。セッション中にいきなり「ジャーッ」っていうトイレの流す音が鳴ったりしてたのかなー笑

エコーチェンバー用に作られた部屋は、真四角とかそのまま長方形の形の部屋だと美しい響きが得られないので、壁を斜めにしたり、反響材を置いたりして工夫をするそうです。色々調整するの楽しそう。

プレートリバーブ

pic from https://www.uaudio.jp/uad-plugins/reverbs/emt-140.html

エコーチェンバーが登場してから10年後の1957年にドイツで新たなリバーブレーターが登場します。

それがEMT140という史上初のプレートリバーブで、ドイツの放送技術方面の研究所などから生まれた会社Elektromesstecknik(略してEMT)が発表しました。

プラグインでもEMT140は色々な所がエミュレートしていて今でも人気ですよね。

プレートリバーブというのは吊るした巨大で薄い鉄板を電気変換した信号で振動させた響きを拾う手法のリバーブで(かなり雑な説明です)、エコーチェンバーとはまた違った響きが得られます。

エコーチェンバーが部屋自体を使ってシステムで持ち運びなど出来ませんでしたが、プレートリバーブは予めパッケージされた状態でレコーディングスタジオに普及した初めてのリバーブレーターであると言えます。

まあ、数百キロと超重量級でありますが…笑

登場してから現在に到るまで、ボーカル〜楽器までナチュラルな感じから過激な感じまで、あらゆる用途で使用されていて録音作品には欠かせないリバーブレーターの1つといっても過言ではないでしょうね。

プラグインではありますが、こんな感じの響きが得られます。

リバーブ無し(素材:GEORGE DUKE SOUL TREASURES) リバーブ有り(使用リバーブ:UAD-2 EMT 140)

スプリングリバーブ

スプリングリバーブというのはギタリストならお馴染みでアンプに付いてるやつですが、1939年にLaurens Hammondが自身の作ったハモンドオルガンにパイプオルガンのような「響き」を与えるために原理を考案し特許を取ったのが始まりのようです。

その後20年間何があったのかは知りませんが、1959年にハモンドオルガンの会社が改良を重ね「ネックレスリバーブ」という名前で世に出します。

pic from https://www.hammondclub.nl/ ハモンドオルガン内部に搭載されているスプリングリバーブの写真

垂れ下がったスプリングがネックレスのようだったからネックレスリバーブと名付けられたそう。

横幅33cm、高さ35.5cm、奥行き2.5cmでユニットの小型化に成功するも、ユニットに衝撃を与えたり揺らしたりするとスピーカーから衝撃音が出る副作用が時代的に全く受け入れられなかったそう。(でも後にロックオルガン奏者はその衝撃音を効果的に使ったり)

1960年にはネックレスリバーブの開発者の1人であるAlan Youngが前述の副作用を解決した上に更に小型化したユニットを開発し、それがハモンドオルガンだけでなくフェンダーのツインアンプに搭載され業界のスタンダードになったみたいです。

スプリングリバーブは自然界にあるような響きを与えるというよりはどちらかというとスプリングリバーブでしか得られない質感を得るために使用される事が多いような気がします。

ギターアンプに内蔵されている小型なものもあれば、大きなスプリングを使用したものまであります。

では、またまたプラグインではありますが聴いてみましょう。

リバーブ無し(素材:GEORGE DUKE SOUL TREASURES) リバーブ有り(使用リバーブ:Altiverb/AKG BX10 IR)

デジタルリバーブ(アルゴリズミック)

デジタル上のアルゴリズムでリバーブを作るという理論は1961年Manfred Schroeder氏がAESの機関紙で発表していたものの、まだコンピューターのスペック的にも実用的ではなかったそうです。

その後1972年にEMTが144というモデルを発表するも、まだまだ能力的に限界がありあまり売れなかったそうな。

しかし1976年にこれまたEMTがアメリカのDynatron社とタッグを組み開発したEMT250というモデルをリリースし、これが史上初の「実戦的に」使えるデジタルリバーブとして世に知られることになったのですね。

EMT 250 pic from https://www.uaudio.jp/blog/emt-250-electronic-reverberator-overview/

ちなみにEMT250はリバーブだけでなく、ディレイ、フェイザーやコーラスなどのエフェクトも備えているのでマルチエフェクター的な要素もありますね。当時のお値段ズバリ20000ドル…!かなり高級品だな。

その2年後の1978年にLexicon社が物理学者でもあるDavid Griesinger博士と協力して開発した224というモデルがリリースされ、先に出ていたEMT250よりも半額ほどのお値段ということもありヒット。

Lexicon 224 pic from https://www.uaudio.jp/uad-plugins/reverbs/lexicon-224.html

更にデジタルリバーブを普及させることになり、Lexicon社もリバーブといえばその名が出てくる会社として認知されるようになります。

80年台になると他の会社からもデジタルリバーブが色々と登場し、世間一般でイメージされるリバーブが大げさな感じの80’sサウンドのように、リアルで自然な残響音を与えるというよりは音色を変えるためのエフェクティブな使い方が多くなっていたように思えます。

リバーブのプログラムもリアリティを追求するもの以外にもNonlinearタイプだったり、リバースリバーブだったり独特なエフェクトが得られるものが登場します。

いわゆる「ゲートリバーブ」という手法は80’sっぽさの代表的な音と感じられるのではないでしょうか?

シンセサイザーやリズムマシンとの相性も良かったのでしょうね。

てことでドラムマシンにゲートリバーブを掛けてみましょう。

リバーブ無し(素材:SPARK Vintage Drum Machines) リバーブ有り(使用リバーブ:全体→Uad-2 Lexicon 224 スネア→ドイツ人から買ったRMX16のIR)

コンボリューションリバーブ

90年代に入っても従来のアルゴリズムによって作られるデジタルリバーブが開発されていましたが、90年代後半に数学の「畳み込み」という理論を基に開発されたコンボリューションリバーブが登場します。

このタイプのリバーブは実際の空間や機器からインパルスレスポンスというデータを採取して他の録音にその特性を適用するといったもので、よりリアルな響きが再現できるという触れ込みです。

ちなみに前述のスプリングリバーブとゲートリバーブの例はコンボリューションリバーブのプラグインを使ってます。

デジタルリバーブの中でコンボリューションタイプと区別を付けるために、前述のアルゴリズムによって作られるデジタルリバーブをアルゴリズミックタイプなどと呼ばれてますね。

Sony DRE S777 pic from https://www.vintagedigital.com.au/sony-dre-s777-sampling-digital-reverb/

ちなみに、そんなコンボリューションリバーブが世界で初めて製品となったのが1999年のSonyのDRE S777というユニットだそうで、当時はインパルスレスポンスのデータはCD-ROMに収録のされていて各データを読み込むのに数十秒かかったそうな。

一応コンボリューションリバーブの例も用意しました笑

リバーブ無し(素材:GEORGE DUKE SOUL TREASURES) リバーブ有り(使用リバーブ:Altiverb/どっかのコンサートホールのIR)

プラグイン時代
ハイエンドなハードウェアリバーブのBricasti M7をエミュレートしたLiquidSonicsのSeventh Heaven Pro。フューチャーインパルスレスポンスという新しい手法が用いられているコンボリューションリバーブとのこと

21世紀に入ってからはコンピューターの性能が上がり、コンピュータ内部での制作が普及したためリバーブレーターも「プラグイン」ソフトとして使えるようになっています。

往年のリバーブレーターをエミュレートしたものや、新しく開発したアルゴリズムのリバーブだったり、コンボリューションリバーブだったり、様々なプラグインが市場に出ていますね。

プラグインはCPU処理のデジタルリバーブであるので、前述のアルゴリズミックタイプかコンボリューションタイプの2種類に分類出来ます。

今回の例で作った音源も全てコンピュータ内部でプラグインによって作られています。

一方で質の高いリバーブの計算はCPUが結構消費される傾向があるので、ハイエンドなハードウェアのリバーブレーターもまだまだ需要があると思われます。

それにハードウェアの場合はフィジカル面での音質変化もあるので、残響音だけでない違った付加価値がありますしね。

以上

そんな感じでリバーブの種類と歴史をザックリと振り返ってみました。

あくまでも「ザックリ」なので色々抜けてたり間違ってるかもしれませんが、リバーブにも色々あるのだな〜っということを知ってもらえれば幸いです。

そして皆もミックスでもっとリバーブをもっとたくさん使って下さい!

ミックスで使うリバーブは1〜2種類が良いとか、そんなTIPS嘘だから!!!!!(ワタクシは5個くらい使う)

(終)

参考にしたページ(思い出せる限り)