そのRMS値って、どっちのRMS?

ちょっと前にTwitterでSlate Digital社のFG-Xに関する話題が流れてきました。

FG-Xの製品コンセプト的にRMS値が-10dBFS RMSが適切じゃないか…というような話だったのですが、このRMS値の基準が自分の普段認識している基準と違ってたので、世間的にどーなってんだろ?と思ったんですよね

世間で見かける文章の中の「RMSが○○dB」って、もしかして自分の基準と違うんじゃないのか…ていうか皆もバラバラだったりするんじゃないのかと笑

ってことで、みなさんが会話の中で使っている「RMS値」ってどっちなの?と問いかけたいので、今回はRMSについて書いてみようとおもいます。

いつものとおり間違ってるところもあるかもしれないので、間違ってたらコッソリ教えるか、どっかで晒しあげて指摘して下さいね笑

RMS値とは

RMS値とは略さず英語にするとRoot Mean Square valueといい、日本語では「実効値」と訳されています。

元々電圧や電流などのエネルギー量を表すために使われるものだそうですが、音楽の波形も電気的に変換されるので、その波形の持つ実効的なエネルギー量=音圧に近いものを表す用途として使わているのだと思います。

世間一般では「RMS値-4dBFSまで音圧を上げったった」とか「音圧をあげたいけどRMS値が上がらないんです…」みたいな使われ方をしていますよね

とはいえ、RMS値は実効値=エネルギー量に過ぎず人間の聴覚特性に準じていないため、近年ではラウドネス感=音圧を表す数値としてLUFS/LKFSといったものがあります。そちらの方がより正確に音圧というものの尺度として機能するということですね。

異なる基準を持つ2つのRMSメーター

さて、本題に戻りますと…世間で見かけるRMS値には2種類存在するものだと思われ、ややこしい事にDAWとかプラグインによって違ったりします笑

てことで、その2つのメーターを紹介。

波形の実効値をそのまま表示するRMSメーター

まずひとつは「数学的に正しい」RMS値を表示するメーター。便宜的にTrue RMSとか書かれてたり。

要は取り扱う波形の持つ本当の「実効値」を表示するもので、サイン波のピークを1とすると実効値は約0.708=-3dBという「そのまま」の解釈で表示してくれます。

サイン波のピークを1とするとRMSは約0.708…の図。音は電圧なのでデシベルの式は20log(A/B)になる(あってる?)

先に話題に出てきたFG-Xは正しくこれで、ピークが0dBFSのサイン波のRMS値が-3dBFS RMSになります。

他にもWavesのPaz-Analyzer(なぜか微妙にズレてるけど)、Voxengo Spanのデフォルト設定時など、プラグインでは「実効値」を表示するRMSメーターは多いですね。

ちなみにピークが0dBFSの矩形波(スクウェア波)を入力するとRMS値が0dBFSになることから、スクウェア波(矩形波)基準のRMSメーターと呼ぶ事もあるみたいです。

AES-17 Standardのメーター

Audio Engineering Societyという組織によって定められた基準のRMS値でAES-17 Standardと呼ばれているメーターです。

こちらはデジタル上で最大である0dBFSにピークを合わせたサイン派を0dBFS RMSと定めています。

単純に前述の「数学的に正しいRMS値」よりも+3dB高い値になるので、メーターによっては「+3dBFS」という名称のオプションとなっているケースも見られます。

前述の通りサイン波で調整していることから、サイン波基準のRMSメーターと呼ぶこともあるようです。

なんで2つあるの?

じゃあ何で2つの基準がRMS値が混在してるのか?という疑問が湧きますよね。

それについてBob Katz先生が何やら語ってくれていたので、要所をかいつまんで超意訳をすると…

70年以上にわたってアナログ時代はデシベルで表示される全てのメーター(RMSメーター含む)はサイン波を基準として調整されていた。例えばクラシックなアナログスタイルのピークメーターは0.775 Vrmsのサイン波(ピークが1.09V)で0dBuに調整して、それをピークとする。デジタル時代になってデジタルのRMSメーターをデザインした多くのテクニカルエンジニアはその慣例に気づかなかったか、あるいは無視して、サイン波のRMS値はピークの0.707(つまりピークから約3dB低い)だから3dB低い設定で表示するメーターにしてしまった。しかし、これはデシベルの基準を定めるのに不適切だ。なぜならば、それが基準値になるということだから。この方法でデシベルの基準値を再定義する事は70年来の慣例を覆すことになる。

っていう感じらしいです。ちゃんとした全文はもっと詳しく説明してくれているのでそちらを読んで下さい笑→ https://www.gearslutz.com/board/4154742-post4.html

要するに、それまで使っていた全ての機器は国際電気標準会議で定められている通りに決められているサイン波で0dBになるように調整していたのに、デジタルになった時にサイン波を基準としてメーターを調整するという事がスルーされていたってとこでしょうか。

そういった事もあってAudio Engineering Societyが1998年にデジタル上の音楽制作に置いて「スタンダード」とするAES-17という基準を定めたのですね。

なので、Bob Katz先生によると「RMS値は音楽制作ではAES-17で決まり、不服があるなら国際電気標準会議に基準を変えるように申請してくれ。」(超略)とのことです笑 → https://www.gearslutz.com/board/3835847-post2.html

当然ですが、彼の提唱していたK-SystemもAES-17基準のRMS値がベースになっているとのこと。

でもプラグインのRMSメーターのデフォルト設定はAES-17になってないことも多いし、AES-17基準は+3dBFSとかいう名前のオプションになってたりで浸透してない気もします…チーム(業界)がバラバラじゃねえか!

で、結局どっちを使えばいいの?

で、結局どっちを使えばいいの?ってアンタ、RMS値は音楽制作ではAES-17で決まりってボブ先生が言うてたじゃん!とは言うものの、実質3dBの差があるだけなので個人で使用する際に何か不都合が起きることも無い気がします。

てぃゥかぁ〜今どき音圧に関してRMS値を使ってるなんて遅れているってぃゥか〜、チョーダサくね〜? やっぱラウドネスメーターを使ってLUFS/LKFSで表す方がィケてるよね〜☆(一昔前の女子高生風)

てことで音圧を数値化したいのならLUFS/LKFSが出せるラウドネスメーターを使った方が良い気がします。フリーでプラグインも出ているし、放送系のラウドネス管理にも適用できますし。

個人だけでなく複数人が関わる場面でRMS値を使う場合はせめて、どっち基準なのかを書いてくれれば混乱が生じないと思います!

まあ、音圧の数値化なんてしてどーすんだ?音圧競争でもするの?(すっとぼけ)

てことで以上、知ってる人には当たり前なRMS値の話でした。

(終)

参考にしたページ(思い出せる限り)