普通EQを使うと位相特性が変化しますが、デジタルEQの中には位相特性に変化が起きないリニアフェイズEQというのもあることは皆さんもご存知だと思います。
IIRフィルターを元に作られたEQ(アナログEQは全てこれ)は位相変化を伴い、FIRフィルターを元に作ったEQの中にはリニアフェイズ特性(位相変化が出ない)のEQもあるということですね。
しかしながら、IIRフィルターのEQでもリニアフェイズ特性を得ることが出来る方法があるという事も小耳には挟んでおりました。
その時は深く掘り下げて無かったのですが、なんとなく調べてみたら案外簡単に実現出来る方法があるということが分かりました。
ということで、今回はアナログモデリング系のEQでリニアフェイズEQを実現してみよう!という企画です笑
やり方
IIRフィルター製のいわゆる「ミニマムフェイズEQ」でリニアフェイズ特性を得るために「リバースフィルタリング」というテクニックを使います。
他の呼び方として 「双方向フィルタリング」とか「フォワード/バックワードフィルター」とかありまして、どれが正式なのかは不明です笑
その仕組みはいたってシンプル。
位相変化は言い換えるとある周波数帯域の遅延(ディレイ)という事になるので、時間軸上で逆再生してEQを使う事で遅延の帳尻合わせをする…みたいな発想です。
例えば6dBをブーストを目的としている場合、半分の3dB分をまず普通にEQでブーストすると、その分遅延が発生します。
その後に対象の音源を時間軸上で反転させると、遅延が逆に前倒しとなります。
その状態でまた同じく3dBブーストすると、先ほどと同じ分の遅延が発生するとので、前倒しとなった分と合わさって綺麗に遅延が無かった事になる…という具合。
最後にまた時間軸上で反転させて元どおりにして完了!
という流れです。
実際にやってみた。
まあ、文章だけだとあれなので実際にやってみましょう。
試しに使用するのはSlate DigitalのVirtual Mix Rackに入ってるSSLモデリングのEQ。
とりあえずLMF(緑色のノブ)をデフォルトの設定で3dBブーストしてみると…アナログモデリングなので当然位相変化が伴います。
こいつを使った音源を時間軸上で反転させると、周波数特性はそのままに位相特性とインパルス特性は反転します。
そしてこの状態から同じくEQを使って3dBブースト、時間軸上で反転しなおしてみると位相特性は…
イエス!リニアフェイズ特性になりました!実験成功!
ちなみに周波数特性を普通に6dBブーストした時のものと比べると、若干一致していませんね。
これはデフォルトでかかっているHPFの効果が2倍になっているのと、Qインタラクション(ゲインによってQ幅が変化する効果)の影響です。
一応オーディオサンプル
そういや実際のサンプル音源を載せてなかったので一応追記します。
使用EQは上記のSlateのFG-Sでデフォルの状態で上から+3dB、+0dB、-3dB、+3dBしたのを直列で2つかけたものです。
曲のネタ感はスルーで笑
バイパス
リニアフェイズ
通常
パッと聴いた感じ、かなり違って聴こえるので、もしかしたらどっかでやり方を間違ってるかもしれない(爆)
みんなもやってみよう!
という感じで、アナログモデリング系のEQでリニアフェイズ特性を得る事ができました!
理論上、アウトボードEQでも出来るはずなので、お手元にステップ式のアナログEQをお持ちでしたら是非リニアフェイズEQにして遊んでみてください笑
実際に使い所があるかと言えばかなり微妙ですが(時間軸上の反転がかなり面倒だし、非線形歪みがあるとIMDの影響も増える)、もしかしたら使える時もあるかもしれません。
ちなみに、ちょっと前に話題になったMAAT DigitalのTheORANGEという999ドルのプラグイン(Algorithmix PEQ Orangeのリイシュー?)は、今回紹介したテクニックを元に作られているのではないかと言われてます。
おそらくレイテンシーが結構発生するのでしょうけど、リアルタイムでこのテクニックを実装したり、他にも色々な工夫が施されてるのかもしれないですね。
当初はプリリンギングは発生しないと言ってた(現在は訂正)けど、この手法だとプリリンギングは普通に発生しますね。
そんなこんなで夏休みの自由研究でした笑
(終)
参考にしたページ(思い出せる限り)