真のITBサミングミキサー?AirwindowsのPurestConsoleを試す。

Airwindowsというプラグインデベロッパーをご存知でしょうか?

米国バーモント州のChris Johnsonさんが個人で運営しているデベロッパーで、一貫してGUIを全て排除したパラメーターのスライダーだけの見た目のプラグインを数多く発表しています。

AirwindowsのマスコットClipperくん。音圧戦争に辟易している?犬だそう笑 元々マスタリングサービスをやっていた時の名残っぽいですね

かつては普通に1つ50ドルくらいでプラグインを販売してみたいですが、2016年辺りからPatreonというクラウドファンディング的なサービスを介して運営費をユーザーから募りながら開発したプラグインを無料で公開しています。

しかも最近はMac/WinのAUとVSTだけでなくLinuxにも対応して、オープンソースも公開し始めているという何とも異端なデベロッパーであります。

リリースのペースも尋常じゃなくて、ほぼ毎月何かしらを発表しては毎回10分〜30分の解説ビデオを作る(でもテキストのマニュアルは作らない笑)という、ちょっと普通じゃない活動をされております。

そんな変わったデベロッパーAirwindowsですが、やっぱりプラグインも一風変わったものが多くて中でもConsoleシリーズというものが気になって試してみました。

のでレポっす。

Airwindows Consoleシリーズとは

近年ITB(In The Box…要はコンピュータ内部)制作でアナログサウンドを再現しようと各社からもアナログコンソールを連想させるプラグインが出ていますが、その流れで2011年に登場したのがAirwindowsのConsoleで現在は第五世代と思われます。

コンソールをモチーフとしたプラグインと言えば、例えばSlate DigitalのVisual Console Collectionが有名なところで、WavesのNLSとか、チャンネルストリップですがPlugin Allianseの最近出してるbx_consoleシリーズとかもそうですよね。あとAcustica Audioの諸々とか。

ここらへんのプラグインは基本的にサチュレーション等の非線形性や周波数特性で色付けをして質感を再現しようとしているプラグインですが、各トラックに作用するだけで、それらをマスターバスで混ぜた時には特に何も作用することはありません。(バスに挿す方のプラグインでのステレオクロストークとかはあるけど、それはあくまでマスターバスだけに作用している)

一方で、AirwindowsConsoleシリーズ各トラックを一旦歪ませて=エンコード(ConsoleChannel)してマスターバスで混ぜてから歪みをキャンセル(イミフ)して=デコード(ConsoleBuss)するとかいう素人にはよくわからない方法で、各トラック同士が影響しあってマスターバスの出力が変わるというサミングミキサー的な効果を実現している…という触れ込みのプラグイン。

それにより「完全なデジタルミキサー」に比べて、より深みや広がりのあるサウンドで各トラックが混ざる…という事なのです。

基本的にはトラックに対する色付けなどはせずに、より「混ぜること」にフォーカスしたコンセプトのプラグインなので、先に挙げた他社の「コンソール系プラグイン」とは一線を画す…というかベクトルの違うプラグインだと言えますね。(ちなみにAirwindowsはコンソールの色付けを目的としたプラグインとしてBussColors等を出してます。)

最初の発表から改良が続き現在は第五世代のConsole5となり、いくつかバージョンが出ていてそれぞれ特色が異なります。

Console5 – 第五世代のConsole
Console5Dark – Console5に同梱されている高音域が少し削られるバージョン。アナログサウンド=ハイ落ち…という人向けらしい?
C5RawConsole – Console5が最初に発表された時のDCオフセットが発生するバージョンにDCオフセット除去するセクションを追加したやつ。修正版とはまた違った質感になる。
PurestConsole – 一番効果が薄くてナチュラルなタイプ。
PDConsole – PurestConsoleにサチュレーションプラグインPurestDriveを内蔵させたバージョン
Atmosphere – 「マルチステージスルークリッピング」を経て全体の音像を遠くにする…あるいは広くする…的な効果を狙ったチューニングがされているらしい

これらは同じミックス内で混ぜて使えるとのこと。

Consoleシリーズの発想自体はアナログコンソールから来ているようですが、特定のアナログ機器のモデリングや再現をしているのではなく、ある意味デジタルでしかできない方法論で新たな表現が出来る可能性があるのではないかと睨んでおります

今回はその中でも特に一番効果がナチュラルというPurestConsoleに注目してみたいと思います。

PurestConsoleとは

AirwindowsのConsoleはトラックが1つだけでも非線形歪みが出ています。

1トラックだけのサイン波にConsole5(ChとBuss)を入れた時の歪み

これも電子工学のスルー・レートを元にしたものらしくて独特なものだと思うのですが、そういった非線形歪みを排除したバージョンがPurestConsoleとなります。

どういうことかと言うと、PurestConsoleの場合はトラックが1つしかない場合にはマスターバスの出力に全く変化がありません。

1トラックだけのサイン波にPurestConsole(ChとBuss)を入れた時の出力は変わらない

それがトラックが2つ以上になると非線形な変化があらわれるのです。

2トラックのサイン波
2トラックのサイン波にPurestConsole(ChとBuss)を入れた時の非線形歪み

結構全体的な質感に変化をもたらす無印Consoleと比べるとPurestConsoleは僅かな変化なのですが、よりナチュラルな効果が期待できるのです。

トラック数が少ないと効果はほとんど分かりませんが、トラック数が増えると蓄積される影響が少しづつ増えて全体の質感に変化をもたらすといった感じです。

使い方

で、このConsoleシリーズは使い方が結構トリッキーです。

各トラックをエンコードしてマスターバスでデコードという特性からわかるように、まず各トラックの最終段にConsole Channelをインサートして、マスターバス(もしくはAUXバスでも)の一番最初にConsole Bussをインサートするというのが基本ルールです。

各トラックの最終段と書きましたが、ここで面倒なのがConsoleChannelは「ポスト・フェーダー」にインサートしないといけないということ。

「ポスト・フェーダー」はつまりはフェーダーの後ろ…だけど「ポスト・フェーダー」にプラグインをインサート出来るDAWなんてのも聞いたことがない(あるのか?)

なので正しく動作させるにはトラックのフェーダーを動かさないでデフォルトの位置に固定しないといけません。

でもミックスするには各トラックのフェーダーを動かさないといけないし、いちいちプラグインのゲイン調整で動かすのは面倒くさすぎる…

そこで個人的に採用した解決策は各トラックの出力先にConsole用のAUXチャンネルを用意してそちらにConsoleChannelを挿すというやり方。

単純計算で必要なトラック数が倍になるという煩雑な仕様になってしまいますが、一旦Consoleチャンネルを用意したら非表示にしてしまえば見た目的には問題なくなります。

Reaperの場合はこちらのスクリプトが非常に便利→https://forum.cockos.com/showthread.php?t=122580

ちなみにConsoleChannelとConsoleBussの間(便宜的にコンソール内部と呼ばれる部分)には非線形性の無いエフェクトなら使っても良いらしいです。EQやDelay、Reverbなどはオッケーで、コンプとかエンハンサーみたいな非線形歪みがでるエフェクトはNGとのこと。

ただしコンソール内部では各エフェクターが通常の挙動とは変わってくるそうなので注意。

あと、EQ、Delay、Reverbにも最近は歪みが付加される物も多いので注意ですね。(この場合どうなるかは知らん)

実際に聴いてみよう!

と、ここまでConsoleシリーズについて紹介しましたが、やっぱり音を聴いてナンボですよね。

というか一応誰でもダウンロード出来るので自分で試せば良いのですが、色々面倒くさい仕様ということもあるのでワタクシがテストしてみたファイルを公開します。ちなみにPurestConsoleのみです。

トラック数が多くなると効果も分かりやすくなる…というのが聴き取れる…はずです笑

※マスタリング的な処理を一切してないミックスのプロジェクトからの書き出しなので音量は小さいですぞ(ドラムソロはちょっと上げたけど)

生録音のドラムソロ

まずはトラック数が少なめだけど、以前遊びで録ったドラムです。
トラック数は合計8トラック

打ち込み主体の歌モノ

次に打ち込みと生録音が合わさった歌もの。Vulfpeck意識のアレンジで遊んでみたやつです笑
トラック数は19トラック

生録音のバンドサウンド

最後にトラック数がそこそこ多かったバンドもの。Shaking Throughの最新エピソードから
トラック数は65トラック(でもコーラスとかルームが多いから実際24〜32trくらいかな?あとサブグループとか使ってるので実際のConsoleChannelの使用量もうちょっと少ない)

どうでしょう?

聴いてみてどうだったでしょうか?

一番色付けが少なく微妙な変化をもたらすPurestConsoleなので音がガラッと何かが変わるわけではないのですが、自分は何となく良いフィールを感じました。ほんの僅かに重心が下がって横に広がるイメージ…

他のシリーズは音が思ったよりも変わって面食らってしまったので、個人的にPurestConsole一択という感じ。

色付けは従来のサチュレーション的なプラグインを使い、PurestConsoleで良い感じに混ぜる…というのが良い使い方なのではないかな〜という所に落ち着いてます。(とはいえ、最近は全然サチュレーションとか使わない傾向にある自分…)

まあ、使うのが面倒なのとaaxは無いってことで流行らないだろーなー笑 オープンソースなので誰かDAWに組み込んだら面白いと思うんだけどそれも無さそうか。

以上。気に入ったらPatereonで支援しよう

ということで、AirwindowsのPurestConsoleを試してみました。

まだまだ使い始めなので色々と研究の余地がありますが、面白いのでしばらく使っていきたいと思ってます。

一応誰でも無料でダウンロード出来ますので、試してみたら良いのではないでしょうか?

Airwindowsには他にも色々興味深いプラグインが多数あるので、いくつか使ってみて良かったらPatereonで彼に是非いくらか支援してあげてね。

月1ドル(年間12ドル)プランからあるみたいです↓

Patreon応募ページ

ワタクシは何となくはみ出し者感が出ているChrisさんが面白いと思ったのと、若干のシンパシーを感じた(笑)こともあり、Patreonで少し支援しました。(とりあえずPurestConsole分と考え年間50usdのプラン)

個人的にこれからも注目していきたいと思います。

あ、このConsoleシリーズを多用したミックスダウンが欲しい方は是非ご依頼下さい

おそらくまだ日本にはガチで使ってる人がいないはず…笑

(終)