マルチバンドコンプレッサーとダイナミックEQの違い

ミックスやマスタリングで使うエフェクトとして定番となったダイナミックEQやマルチバンドコンプレッサー。

どちらも特定の帯域にダイナミクス処理ができるという点で似ているのですが、両者は一体何が違うのでしょうか?

別に知らなくても問題ない事ですが、どうでもいいことばっかり書いちゃう当サイトがまとめてみましょう。

まあ、それを知ったところでミックスもマスタリングも上手くなりませんけどね(爆)

マルチバンドコンプレッサーの動作方法

では初めにマルチバンドコンプレッサーの仕組みをざっくり見てみましょう。

マルチバンドコンプレッサーはまず元の音源をいくつかの帯域に「分割」するところから始まります。

マルチバンドコンプのイメージ図。実際には各バンドの帯域は完全に分割されてなくて重なる部分がある。

この時に大抵は分割された各帯域にパラメーターが設置されます。

パッと思いつく例外はFabfilterのPro-MBで、あれはプロセスするバンドだけにパラメーターが表示されますね。

で、分割された各帯域にそれぞれ直接ダイナミクス処理(コンプレッションやエキスパンション等)が適用し、それらを足して1つの音源に戻す…という流れです。

元の音源を分割する時に使われるフィルターはIIRのミニマムフェイズとFIRのリニアフェイズどちらも使用され(製品によって変わる)、ミニマムフェイズの場合は各バンドのゲインが変わると位相特性も変化します。(ミニマムフェイズEQと同じ)

かつてIIRのミニマムフェイズの場合マルチバンドに分割するだけでクロスオーバーポイントの位相が変わってしまうという事もあったようですが、最近は分割しただけの時は位相特性がフラットになるように調整されている製品もあります。(Linkwitz-Rileyフィルターというのが使われているらしい)

一方でFIRのリニアフェイズフィルターを使っている場合はインパルス長や窓関数などの塩梅によって各プラグインでの特色が出るのかなーっと思います。

ダイナミックEQの動作方法

それでは次にダイナミックEQの動作方法をざっくり見てみます。

まずシンプルにEQがどのように働くのかを思い出してみると…

元の音源から特定の周波数を取り出して、その取り出した周波数のゲインを変更して戻す…的な理屈でした。

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2016.12.20

ここのゲインを変更するセクションにダイナミクス機能(コンプとか)を搭載したものがダイナミックEQになります。

そして、バンドが直列構成になっているダイナミックEQの場合、例えば2バンド置いた場合こうなります。

直列構成のダイナミックEQのイメージ図

この場合、ダイナミクス処理が直列になっているので、近い帯域で激しく使うとIMDの影響が出やすくなるかもしれませんね。

ちなみにTDRのNOVAは例外で、並列構成となっています。

並列構成のダイナミックEQのイメージ図

TDRのNOVAはパラレル構成のダイナミックということを推しているので、世の中のダイナミックEQの多くは調列構成になっているかもですね。

ちなみにオートEQは?

近年よく話題に上がるオートEQ的なやつ(例えばSoundtheoryのGullfossやSonibleのSmart EQやZynaptiqのUnfilterなど)

ダイナミックEQっぽいとも言えますが、これらはアダプティヴEQという分類になるようです。

対象の音源を分析して適切なフィルターを動的に適用する…みたいな仕組みはデジタルじゃなきゃ絶対無理そうなものですね。

それぞれの違いを確認

では、それぞれの違いを確認してみましょう。

1.分けるか分けないか

まず大きな違いは対象のソースを分割するかしないかの差

マルチバンドの方は元の音をいくつかの帯域に分割してエフェクトをかけるのに対して、ダイナミックEQの方は分割はせずにサイドチェイン的に動作しています。

つまりマルチバンドは何もしなくても各帯域が一度分割されて元に戻すという工程が行われるので、挿しただけで分割に用いられるフィルターの影響が出る場合もあります。

とはいえ、最近のプラグインは分割しただけで大きな影響が出るようなことは無いと思います。(量子化誤差程度じゃないかな?)

2.フィルターの種類

これも誰しもすぐ思いつく差ですが、フィルターの種類に大きな違いがあります。

ダイナミックEQは途中までは通常のEQと同じなので、サージカルな処理やレゾナンス付きのシェルビング、Qインタラクション付きのカーブはたまたティルト型など様々なスタイルを使うことが出来ます。

一方でマルチバンドコンプレッサーは、各帯域を分割して戻した時の位相特性がフラットになるように調整しないといけないので自由度が下がります。

その結果、比較的帯域範囲の広い形になります。

3.バンド構成の違い

バンド構成にも違いがありますね。

マルチバンドコンプレッサーは各帯域を分けてそれぞれに処理する一方で、多くのダイナミックEQは直列的に処理します(多分)。

なので、ダイナミックEQはバンドの「オーバーラップ」が可能になり、多彩なカーブを描く事が出来ます。

しかし、ダイナミックEQが直列構成の場合だと、重ねたバンドでダイナミクス処理を同時にすると相互変調歪みの影響が大きくなる可能性があります。

あくまで「理論的には」の話なので実際どこまで相互変調歪みの悪影響が出るのかは各々判断するしかないですが、非線形なプロセスの直列処理は「非倍音」な要素が大きくなる傾向にあることは確かです。

一方で、マルチバンドコンプレッサーは各帯域を独立して処理しているので他のバンドからの影響が少なくなります。(ゼロでは無い)

ダイナミックEQが直列構成か並列構成かはマニュアルに書いてある場合もあれば(DMG Audioとかは書いてある)、書いてない場合もあるし、サポートに尋ねても教えてくれない場合(某波さんはアルゴリズムに関わる部分は教えられない…って笑)もあります。

TDR NOVAは並列構成であることを結構売りにしているので、大抵のダイナミックEQは直列構成なのかもしれません。

選び方

さて、それなりに違いがあるという事が分かりましたが、どのように使い分ければいいのか!?

そんなもん知るか〜!

…と終わりたいところですが、それぞれの使い分けではなく、各プラグインの性能がどこで差異が出るものか?というところをテキトーに書いてみます。

結局のところダイナミックEQもマルチバンドダイナミクスも基本的には似たような事が出来ますからね。

各プラグインで何で違いが出るかというと一つはやっぱりカーブの種類。

ダイナミックEQの中でも多彩なカーブを持つプラグインもあれば、必要なタスクに応じたカーブだけに絞っているものとある気がします。

色々なカーブを持っているダイナミックEQはアグレッシブな音作りに適していて、カーブの種類が限られている場合はどちらかというとトラブルシューティング的な用途が向いているかもしれませんね。

一方で、マルチバンドコンプの方は前述の通り帯域を分けて戻すというタスクにより、比較的幅広なカーブ(カーブではないけど笑)となりますので、全体的なキャラクターを残しつつ調整する…という使い方が適しているかもしれません。

マルチバンドコンプの場合は各帯域に分けるためのフィルターの種類によって差異が出ます。

ただ近年のプラグインの場合はフィルターそのものの性能差より帯域をどこで分けるかのセンスの方が重要になってくるような気がします。

フィルター自体のトランジェントレスポンスとかの差はマスタリングレベルの差異で、誰しもが劇的に差を簡単に感じ取れるような差では無いんじゃないですかね?

フィルター以外で差異が出る大きな要素はダイナミクス処理の部分の性能です。

ダイナミックEQにしろマルチバンドダイナミクスにしろ、要は内部にコンプレッサー/エキスパンダーが内蔵されているので、その性能によって各々の個性が出てきます。

Dry/Wetでパラレル処理が出来たり、ダウンワードだけでなくアップワードに出来たりattack/releaseなど細かく設定できるタイプのものから、簡略化されて初心者でも使いやすいものまで様々あります。

コンプ/エキスパンダー自体の挙動もそうですが、サイドチェイン部分も重要ですね。

何しろ特定の帯域にコンプを使うわけですから、検知方法は凝っていたほうが良いのです。

対象のバンドをそのままソースにするだけでなく、他のバンドをソースにしたり、サイドチェインソースにEQをかけれたり、他のトラックをソースにしたり、そういう事が求められます。

アナログライクな製品の場合、ダイナミクスのゲイン部分に非線形性(サチュレーション)が出るものもあったり。

非線形なプロセスなのでオーバーサンプリングのオプションなどのアンチエイリアシングも重要ですね。

あとはユーザーにとって使いやすさの部分だったり、見た目の部分だったり、 CPU的に軽いかどうか…等の部分で個性が出てきますね。

何を重視するかは人それぞれ、各自デモりましょう。

理屈はいいから使えればいいよ

そんな感じでマルチバンドコンプとダイナミックEQについてテキトーなことを書いてみました。

結局のところ、どんなエフェクターにも言えることですが明確な目的が思い浮かばない時は使わない方がいいかもね。

(分かりやすい例でいうと、ディエッサーみたいな使い方をしたい…みたいな具体性)

特にマルチバンドコンプもダイナミックEQも「非線形なエフェクト」=非可逆なので、間違った使い方をして変な音になってしまっても後から戻せなくなってしまいます。

なんとなく使うのではなく、目的をイメージしてから試したいですな。

まあ、とはいえ実際に使わないと分からない事がほとんどだと思うので、とにかく色々試して使ってみたらいいと思います。

いやまじで、本当は仕組みなんてどーでもいいんだよ!

自分の好みの音が作れればね。

紙を切るのにハサミもカッターでもどっちでいいみたいなさ笑

じゃあ、なんでこんな記事を書いたかって?

ジブンデモワカラナイ…ギギギ……

(終)

参考にしたページ(思い出せる限り)