海苔波形からギザギザ部分を復元してみた
〜Perfect Declipper + Natural Dynamics〜

海苔波形…録音音楽をコンピューターに取り込んでDAWなどで波形を表示した際に波形のギザギザした部分がぺったんこに刈り取られて、全体が四角い「海苔」を彷彿とさせる形状に見えることから呼ばれるアレ。

個人的な印象で言うと大体1994年辺りを境に録音作品から徐々にギザギザ部分が圧縮され始めて、2000年を超えてからはポップスやロックみたいなジャンルでは海苔波形がスタンダードになった感じです。俗に「音圧戦争」と呼ばれたりしてます。

近年になって音楽ストリーミングサービスが取り入れている「ラウドネスノーマライゼーション」という技術が知られるようになってから徐々に風向きが変わりつつあるような気がしないでもないですが、まあ依然としてソコソコ潰された状態で仕上げられています。

さて、そんな海苔波形を前に「海苔波形になる前の音ってどんな感じなんだろう?」とか思った事はありませんか?

熱心なリスナーで音圧戦争に反感を持っている方だったら思ったことあるでしょうし、自身も音楽制作をしている方なら色々と既存の海苔波形な音源に対して色々試してると思います。(自作曲ではいつでも聴けるわけだが)

とはいえ海苔波形を作るために用いられるダイナミックプロセッサーは非可逆性なエフェクトなので基本的に完璧な修復は出来ないもの。そのためかパッと検索した限り具体的な音源と共に検証されている例は国内では見当たりません。

となれば…私がやるしかないでしょう!(笑)

役に立つ情報はもう他のサイトにまかせて、今回は海苔波形からギザギザ部分を復元してダイナミックレンジを広げるという真面目な音楽制作者は行わない不真面目な検証をやりまあす。

海苔波形とは

海苔波形については当サイトでも何度も書いてあるので、おさらいしたい場合は以下のページを参照されたし

「昔のCDは現在と比べると音圧が低くてショボイ」というのは誤解である。〜録音作品の音圧に関する話〜

2016.10.03

マスタリングで音圧を上げる前に知って欲しい幾つかの事

2017.01.23

素材

みんなが知ってるような楽曲でデモンストレーションしたいのだけど著作権的な事だったり、そもそも海苔波形「前」の音の正解を知る由もないので今回は自分がプロデュ〜スしたアホな楽曲でやります。

ヒゲダンのプリテンダーのアレンジをパロったつもりがチャゲアスとか昔の曲風などと言われてしまったズッコケな曲です笑

まずは海苔波形にする前の波形を御覧ください。(約40秒と短い波形)

ラウドネス値はIntegrated-19.3LUFSで、ヘッドルームも十分あるマスタリングに出すのに最適なミックスですね笑

こいつを海苔波形にするとこうなります。(ドーン!)

ラウドネス値は…Integrated:-6.4LUFS、Max Short-Term: -4.6LUFS、 Max Momentary: -3.5LUFSで、しっかりトゥルーピークも+0.1dBほど飛び出してます(笑)

まだまだ甘い気もしますが、まあ最近はこんくらいで十分じゃない?

行ったプロセスはAIrwindowsのDrive(サチ)とFacet(クリッパ)で刈り取ってMidの音量を1.5dB下げて(怒られる!)FabfilterのPro-L2で更に叩く…簡単でしょ?(こんなん良い子は真似しちゃダメよ)

これにて海苔波形ビフォア・アフターが用意できました!

必要な方はファイルをDLできますのでドーゾ。

とりあえず結果だけ聴ければいいよね?

忙しい現代人の皆さん、とりあえず音さえ聴ければえーでしょ?

というわけで、動画で聴き比べてみましょう!

*元音源と正確に音量を同じにする為にMidの音量だけ戻してたのバイパスし忘れてたかも(うろ覚え)。ま、Mid戻してても海苔波形は-7LUFS(integrated)で海苔だったしいいでしょ。

Thimeo “Stereo Tool”

さあ、ここから先は暇人のために海苔波形を修復したソフトを紹介します。

今回使ったのはオランダの会社Thimeoが出しているStereo Toolというソフト。

これは元々FMラジオ局向けのソフトみたいで、FM放送向けのプリエンファシスとかラジオデータシステムとかいうやつのエンコーダーなど放送向けの機能が搭載されていますが、一方でリミッターやクリッパーなどのオーディオエフェクトやリペア系のツールまで入っていて、それぞれのモジュールごとにライセンスが購入可能となっています。

日本国内だとメディアプレイヤー用のプラグインとして昔に紹介されたりしてたようですが、EQとかリミッターが使える…くらいな紹介具合しか見当たらなかったです。

今回は数あるモジュールの中のPerfect Declipperというクリップ修復機能とNaturalDynamicsというダイナミックプロセッサーを使用しました。

なお、Stereo Toolは本来はスタンドアローンのソフトウェアみたいですがVST版も販売していて、私はそちらを使用しています。

ライセンスは手動発行しているようで、購入後しばらく経ってから個人メールっぽい感じでライセンスコードが送られてくる素朴なスタイルです。

あ、元々放送向けのソフトウェアだからか44.1kHz/48kHzでしか動作しない仕様となってます。一応それ以外のSRのプロジェクトでもプラグインは使えますがサンプリング周波数変換されて44.1/48でプロセスされるっぽい。

その為か分からないけどDAWの遅延補正が微妙にずれる現象があった。

Perfect Declipper

まずはPerfect Declipperというやつから。

クリップという単語は「刈り取る」という意味の動詞だったりするのですが、海苔波形を作る時に波形のギザギザ部分をまさしく刈り取ってますよね。

この刈り取られた部分を修復するツールがDeclipperというもので、有名なところだとiZotopeのRXのモジュールにあったりで特に珍しいものでも無いと思います。

しかしながらThimeoのはパーフェクトなデクリッパーと自ら名乗っていて強気。

Perfect Declipper単体のサイトによると従来のDeclipperとは一線を画する革命的な新しいアルゴリズムを使ってあらゆる歪みを取り除くことができると豪語しております。

ほんまかいな(関東人です)

ちなみに公式サイトにアップされてるデモではGreen DayのAmerican Idiotやあの有名なMegadethのDeath Magneticなどでデモンストレーションしてます。

で、Stereo Toolのモジュールとして使えるPerfect Declipper(モジュール名は単にDeclipper)ですが、デフォルトの状態だと能力を100%発揮できません。このままだとRXのやつとさほど変わらない。

ですが、ConfigurationのところでBasicモードからAdvanceモード以上を選択すると、設定できるパラメーターの数が増えて、ここらへんを調整するといい感じになります。

とはいえ、謎のパラメータが多すぎてわけわからん!っというのが正直なところ。

一応、説明文は出てくるけど、いまいちピンと来ないし、弄っても効果がよく分からないパラメータも多くあります。

でも、とりあえず色々テキトーに調整すると全然違います。

というかGUIがいつの時代のソフトだよ!って感じで色味もフォントサイズも全てが見辛い…笑

まあ、そんな感じで色々パラメーターが多いDeclipperでした(雑)

Natural Dynamics

いくらPerfect Declipperと言ってもデクリッパーだけだとトランジェントをちゃんと取り戻せない事が大半です。

そんな時に使うのがNatural Dynamicsというモジュール。

これはマルチバンドのエキスパンダー/ゲート+トランジェントシェイパーみたいな物だと思いますが、クロスオーバーの設定だったり検知設定だったりダイナミクス処理だったりに色々工夫されていると思われ、やっぱりよく分からない謎パラメーターがたくさん出てきます。

まあでも、考え方としては潰された波形からトランジェント成分を検知して、それを誇張して原音に足すことでトランジェントを復活させる的なことですね。

なので、もとのミックスがボーカルがドーンと前にあってリズム楽器がとても小さいバランスとかの楽曲だとトランジェント成分を検知するのが難しいので、なかなか上手く働かないです。(謎パラメータを弄って上手くできる可能性もある)

逆に海苔波形だけどキックとスネアが存在感を発揮しているようなミックスの音源だとこのNatural Dynamicsの検知が上手く働くので、Perfect Declipperとの合わせ技で良い感じになりやすいです。

最近流行りの?音数少なくて結構潰してるけどビートはビシビシ打って来る系の音源は得意だと思います。

海苔波形を元と比べてみて音はどう違う?

ちょっと本題とはズレますが、海苔波形と元のミックスを聴き比べてどのような違いを感じますか?

こういうのは人それぞれ感じ方が違うものですが、私の感じ方としては「ステレオイメージ」が大分変わるなぁという印象。

これはMidSideの操作に起因するものでは「なく」、MidSide処理をしていない「海苔波形」と「元の波形」を聴き比べた時にも一番感じ、「海苔波形」のほうがステレオイメージが「狭く」感じます。

パーツ単位で言えばスネアとかのトランジェントが潰される影響が分かりやすく聴き取れますが、それよりも海苔波形の方が全体のステレオ感が狭く聴こえるところが気になる。

それが音の立体感的な部分なのかな?っと思ったり。

まあ、これは私の主観なので他の人はまた違うでしょう。

皆さんはどんな印象でしょう?

みんなもやってみよう

というわけで、ThimeoのStereo Toolを使って海苔波形を修復してみたというお話でしたが、みんなもお気に入りの音源が海苔波形だった時に修復を試みたら楽しいかもね!

Thimio Stereo Tool

ほんとは私も音圧戦争時代にリリースされてるお気に入りの音源(エレカシの東芝以降の音源とかさー)を全部やって遊びたいけど、そんな時間的&経済的余裕がないので出来ません(涙)

誰かパトロンになってください(切望)

異端の音楽制作技術を提供しますよ(ニチャア…)

(終)