音圧戦争には反対派だけどマジメに海苔波形を作ってみた

当サイトでは度々「音圧戦争」とか「ラウドネスウォー」等について言及して、個人的にも反対というか早く終わって欲しいなーっというスタンスを取っています。

近頃はラウドネスノーマライゼーションが少しづつ世間でも認知されて来ているようで、「音圧戦争は既に終わっている」なんて話も聞こえて来ますよね。

しかしながら、Spotifyとかでロックバンドとかのプレイリストを聴いてみるとガッチガチに詰め込んでる楽曲がほとんどだったりするので、やはり平均音量を上げないと依頼者から「 技術が無い / クオリティが低い 」と、評価されてしまう傾向にあると思います。(マスタリングはせずにミックスまでの場合でもあり得るのが悲しい)

いくら「音圧戦争はよくないよね」と言ったところで、「結局のところクオリティーの高い海苔波形が作れないからブーブー言ってるんじゃないの?」的な事を思われているのじゃないか…という節も感じないこともないような。

なので、ここは「ワイだってクオリティの高い?海苔波形が作れるんやで!」っということを示してみようじゃあないか…

と思ったのでやってみました。

クオリティの高い海苔波形って何?

まずクオリティの高い海苔波形なんやねん!…って所から始めましょう笑

そもそも海苔波形というものはソフトウェアで音源の波形を読み込ませた時に海苔っぽくみえるモノをさしますが、これは波形の縮尺によって結構変動するので海苔波形のハッキリした定義は難しいというか無理です。

常に-3LUFSみたいなのは論外として、平均音量が全体で-10LUFS以上のものは縮尺によっては海苔波形に見えちゃいます。

ですが、とりあえず今回は最終的に作るラウドネス値が-7LUFS以上でずーっと続くような音源を海苔波形と見做します。

そして「クオリティの高い海苔波形」…物事の良し悪しは往々にして主観的な判断によるものなのでこちらも一概には言えませんが、EDMやロック等の本質的にラウドなジャンルでは「海苔波形が良い」という意見をヒントに、それらのジャンルの有名なアーティストの楽曲は「クオリティの高い海苔波形」とみなせると考えます。

楽曲

ということで楽曲を用意します。

ラウドなジャンルでアレンジが簡単なやつといえば…パンクです(爆

Spotifyにある最近のパンクのプレイリストやグラミー賞を受賞したこともあるGREEN DAYの曲を参考に、それっぽい曲を作ってみました。

ドラムはソフトウェア音源のSuperior Drummer 3で、ギター、ベース、ボーカルは録音。

ちなみにギターはアリアプロのレスポールっぽいけど形が違うやつで、ベースはフェンダージャパンのプレベ(弦は約2年変えてない)…録音のサンプリングレートは後から変換するのが面倒なので44.1kHz…というかなり意識低い系のプロダクションであります。

まあSD3も収録が44.1kHzだし、えーじゃないか。

ミックス

最終的に「海苔波形」を作る場合には、それ用にミックスする必要があると考えます。

健全なミックスを志向する場合は「マキシマイザーが無い状態のミックスダウンで最高」を目指しますが、クオリティの高い海苔波形を目指すときには「ミックスをマキシマイザーでぶっ潰した後が最高」になるべく調整しないといけません。

具体的にはロック的なジャンルの場合は海苔波形の状態でもスネアとキックがバシバシ聴こえた方が良い(たぶん)ので、ミックスの時にいつもよりも大きめにします。

要はマキシマイザーによる影響を逆算しながらミックスダウンする形になります。

なので、マスターバスにマキシマイザーを挿して潰した時の質感をチェック。(ここは常にマキシマイザーかけながら作業の方が良いのかもしれないけど、慣れないので自分は終盤にチェックスタイルにしました)

うーむ…いつもと全く違うワークフローで、新鮮ですなあ笑

まあ、そんなこんなでミックスしました。(この後ミックス部分も聴けるよ)

マスタリング

で、ミックスの後にマスタリング…というか「海苔波形」にします。

特に変わった事はせずに、クリッパー(StandardCLIP)→マキシマイザー(ProL2)というシンプルなチェイン。

こんなんマスタリングと呼べる代物ではないでしょう笑

マルチバンドコンプとかアナログモデリング的サチュレーションとか一切使ってません。

マキシマイザーの前にクリッパーのハードクリップでピークを少しだけ刈り取ることでマキシマイザー単品で上げるより密度が少し上がると感じます。( LUFSが同じでも)

最後のマキシマイザーでは10dBくらいリダクションしてました。YABEEEEEEEEEEEEEEE

ヘッドルーム0.5dB確保しての-6.1 LUFS(Integrated)…海苔や
ダイナミックレンジメーターはDR5…海苔です。

聴いてみましょう

というわけで、ワタクシが真面目に作った海苔波形を聴いてみましょう。

曲名は「Ceiling」です(爆)ちなみにテキトー英語です()

どうすか?さっきのプレイリストに入ってても違和感なさそうじゃないですかね?笑

ギターの音作りがテキトーすぎたなー

ミックス時の音と比較する

これで終わったら面白くないので、マキシマイザーで潰す前の音を聴いてみましょう。(クリッパーはすでに使ってる)

スネアとキックがデカい。

前述の通り、最終的にマキシマイザーで潰す事を前提としたミックスダウンを行っているので、この状態ではいささかバランスが極端ですね。

それでは海苔波形の方と音量を揃えて聴いてみましょう。

当然?最終的に狙っていた海苔波形の方が「バランス」は良いですねぇ

元々が海苔波形を前提とした音作りをしている場合は、マキシマイザー無し=クオリティUPという短絡的な結果にはならないということですね。

ミックス段階で再調整して聴き比べ

海苔波形用にミックスした場合はスネアとキックがかなり大きいですが、ミックスダウンの方でスネアとキックを下げてみたらどうなるでしょう。

海苔波形の方のバランスに少し近づきました。

これを音量を揃えて聴いてみましょう。

どうでしょうか?

ギザギザ波形の方が奥行き感とか広がり等を感じませんか?

でも、全体のキャラクターは意外と差が無いなーと思いました。(元のミックスを海苔波形のバランスに近づけただけなので当然といえば当然ですが)最近のマキシマイザーってすごいね笑

一般的なリスナー専門の方によっては違いが分からないかもね。

海苔波形用じゃないミックスを海苔にしてみる。

ついでに海苔用では「ない」ミックス、つまりは海苔波形を元に再調整したダイナミックレンジのあるミックスを海苔にしてみます。

最初の海苔と比べるとやはりキックとスネアが奥の方に引っ込んでしまってますね。

これも当然といえば当然ですが。

ブラインドで聴き比べてみよう

ということで4種類の音源を作りましたので、それぞれ音量を揃えてブラインドで聴き比べてみましょう!

A〜Dまで順番を変えてます。

A
B
C
D
気になる答えは…
A:ダイナミックレンジのあるサウンド
B:海苔用ではないミックスを海苔にしたやつ
C:最初から海苔波形にするつもりで作った海苔
D:海苔波形用ミックス

音圧ではなく質感に違いがある

さて、海苔波形と「非・海苔波形」の音量を揃えて聴いてみるとあることに気がつくと思います。

それは両者に「音圧の差」がほとんど無いということ。

音圧が必要なジャンルは平均音量を上げた方(海苔波形)が良い。なぜならば音圧が必要だから…というのは実際には的外れだという事がわかると思います。

違うのは「質感」なのです。

ここで潰した「質感」が良いと感じるなら勿論それはそれでアリ。でも、それは「音圧が高いから」ではなく「潰した質感が好きだから」。

全体にマキシマイザーでの激しいリダクションが必要かどうかは平均音量ではなく「音質面での理由」で決めた方が良いのです。

そして、YoutubeやSpotifyのラウドネスノーマライゼーションによって再生音量が下げられてしまったとしても、別にその音源が持っている音圧が変わるわけでは無いという事も分かると思います。

最終的にどういう音になっているかが全て

というわけで、ワタクシも一応こういうサウンドも出来るのだ!…ということが伝われば幸いです笑

それはともかく最終的に平均音量を高めの音源(海苔波形)を作る場合でミックスエンジニアとマスタリングエンジニアが別の人が務める予定の時は、あらかじめミックスエンジニアにその旨を伝えた方が良いかもね。

そうすれば、海苔になっても少しマシな結果になると思います。

そして今回ついでに得られた洞察は、録音音楽の音が良くないと感じる理由は「海苔波形だからだけという事ではない」だろう…という事です。

昔はともかく、今のマキシマイザーの性能を考えると元のキャラクターをある程度残しつつ平均音量を上げることが出来るので、音が良くないと感じる音源はそもそもミックスダウンまでの段階で良くない可能性が高いのかもしれません。

もちろんダイナミックレンジを潰される事による悪影響も大いにあるでしょうけど、全体的に破綻してるやつは元々破綻してるのかもね。(それは知る由もないけれど)

なので、「海苔波形」どうこう関係なく、もっと根本的に音質自体のクオリティーを求めて行けば(要求していけば)、最終的に「音圧戦争」も終わるのではないかなぁ…と思ったけど、そんな甘くないかな。

それでも潰さない方がカッコイイと思う

今回は割と海苔波形肯定の方々に有利な?情報になっているように思いますが、ワタクシ自信はやっぱりダイナミックレンジのあるサウンドの方が大好きです。

突き詰めていったらどちらがポテンシャルをフルに発揮できるか…と考えると、ダイナミックレンジのある方だと思います。

なぜならばマキシマイザーで平均音量を-5LUFSにした時に被るデメリットを考えずに、欲しい質感だけ求める事が出来るのだから。

その上でマキシマイザーで得られるポジティブな効果(音質面での)を使うかどうか考えれば良いわけです。

ロック等の本質的に音圧が求められるジャンルにおいてもマキシマイザーで潰し過ぎないミックス/マスタリングを最初から志向した方が何倍も魅力的な音になると思っています。

具体的にはロック等のジャンルの場合高くても全体で-10LUFSくらいのラウドネスで仕上げた方が気持ち良い音になると考えてます。

現状を変えるためには商業的な大成功が必要であると思うので、なかなか今の時代難しいと思いますが…いつか変わってほしいなぁ

あ、でも、今回作ったサウンドみたいなのが欲しい人は是非、仕事下さい笑

私はミックスダウンの天才です(どやぁ)

(以上)