ミックス初心者にVUメーター導入のススメ
〜VUメーターを使って音量を決めてみる〜

new_vu

“© Raimond Spekking / CC BY-SA 4.0 (via Wikimedia Commons)”

多くのミックス初心者にとって困惑のもとになる話題として、ミックスする時の音量をどのくらいにすれば良いのかという問題があると思います。

DAWに読み込んだ各チャンネルの音量をどのくらいにすれば良いのかという話で、大体テキトー思うままに決めてミックスダウンをし始めると思いますが、その結果マスターフェーダーの最大値を超えて赤いクリップマークみたいのが表示されてしまうことが多いのではないでしょうか?

現在のDAWは内部ミキサーに浮動小数点数を使っているものが多いようなので、マスターフェーダーを下げてピークを0dBFS以下にようにすれば音質的な問題は無いとも言えますが、安定したミックスを作るには「基準」を決めたほうが良いです。

そこでオススメするのがVUメーターの導入。昔のミキシングコンソールやテープマシン、その他機材にはよく付いているメーターで、アナログ機材をエミュレートしたプラグインにも付いているものも多いと思います。

このVUメーターを導入することで、安定して音量レベルをコントロールすることが出来るかもしれません。

私自身の場合も独学でミキシング等をやってきた今までを振り返ると、VUメーターを導入したことが最初のブレイクスルーでした。

てことで、今回はVUメーターの私的導入方法を紹介したいと思います。

VUメーターとは

面倒なのでWikiepdiaさんから引用すると…

VUメーター(ブイユーメーター、VU Meter)とは音響機器に於いて音量感(volume unit)を指示するための測定器である。VUメーターは1939年にベル研究所及びCBS、NBCにより通信線路の基準レベルを監視するために開発された。Wikipedia

要は音楽の平均音量に近い値を表示できる昔ながらの伝統的なツールで、デジタル技術が発展した現在ではもっと精密に音量をチェックできる「ラウドネスメーター」が色々出ています。

実際のところ正確なラウドネス値を知る必要があるマスタリングや放送系の仕事では最近のラウドネスメーターを使用したほうが良いと思いますが、ミックスを行う時の基準を知るためにはVUメーターで十分だと考えてます。

とはいえ、クラシック楽曲のようなアレンジ的にダイナミックレンジが非常に広いジャンルの音楽には向いていないのも事実です。

しかし、POPS/ROCKなどのポピュラー音楽においては大丈夫ですし、そのワークフローに慣れたらメーターは必要なくなりますので、結果的に何でも出来るようになるはず!

基本的な性能

VUメーターは入力に対して針が反応するシンプルな作りで、先に書いたように平均音量に近い値を表示できるとされています。

針のレスポンスが大体300msと遅いため、音のピーク(最大値)は表示できません。なので、針が振り切れてなくても突発的なピークが発生している時もあります。

それと高音より低音に反応してしまうため、正確な平均音量は示さなかったりで結構カワイイやつですね笑

実際の現場では放送業界や音楽業界などで入力に対する基準値が異なるようですが、それについては今回は割愛します。

プラグインで導入する。

実際のハードウェアでVUメーターを導入するとなると、意外と?値段が高く結構ハードルが。。

しかし、ありがたいことに現在はコンピューター内部完結の音楽制作が多いためプラグインバージョンのVUメーターがいくつか出ていますので、DTMやITBミキシングの皆さんはそちらを導入しましょう。

ちなみに私が使っているのはUKドイツのプラグインデベロッパーKlanghelmのVUメータープラグイン。

非常にシンプルで針の動きも良い感じです。まさにシンプルイズベスト…でも先日新たな機能を加えたバージョンをリリースしてました笑

他にもPSP Audiowareから出てますね。

プラグインなので針のレスポンス速度をカスタマイズしたり色々設定も出来ます。

どっちも持ってますが(古いバージョン)個人的にPSPのよりKlanghelmの方がシンプルで好きですね。

実際の使用方法〜私の例〜

てことで実際のミックス時におけるVUメーターの使用方法の「例」を紹介しますが、VUメーターは単なるツールの一つなのでコレが「正しい」という決まった使い方はありません。

まあ、あるのかもしれないけど私はそういう学校に行ってないので知りません。

あくまで「私の使い方」なので、自分流にアレンジするなりしてくださいな。もちろんそのまま試してみてもいいしね。

手順1. VUメーターをインサートする。

まずマスタートラックにVUメーターをインサートします。

私は基本的にミックスのマスタートラックにはコンプレッサー等を入れないタイプなので一番上にインサートします。何か他にインサートするとしてもエフェクト前後でゲインマッチをすればVUメーターの後ろで問題なし。

まず最初に設定するのはVUメーターのリファレンスレベルです。

デジタル内のプラグインでVUメーターのリファレンスレベル(基準値)が例えば-18になっている場合、ピークが-18dBFSである1khzのサイン波を流した時に、VUメーターの針は0dbを示します。VUメーターの基準値の変更方法はプラグインによって違うと思うのでマニュアルを読んで下さい。

ミックスの際は(-18)〜(-24)の間を基準値とすれば、マスタートラックのピークが0dBFSを超えることはあまり無いでしょう。(マスターにコンプレッサーなどをかけることなく)

ラウドロックやパンク等のダイナミックレンジが狭めなジャンルの音楽の場合はリファレンスレベルを-16とかにして(あるいはもっと高く)してもいけそうです。が、後のマスタリング等で音量は上がるのでもっと低くてもいいんじゃない?

ちなみに多くのプラグインVUメーターのデフォルトの基準値は-18になっていることが多いように思います。アナログ機材をエミュレートしたプラグイン付属のVUメーターも同様で、メーター下とかに付いてるネジを回すことで調整出来たり。

手順2. リファレンストラックを使いモニターの音量を調節する。

VUメーターの設定が終わったら次にリファレンス(参考)としたい楽曲を読み込みます。

ここでリファレンスにする楽曲は出来るだけミックスする楽曲に近いジャンルにしたほうが無難です。(ロックの楽曲をミックスにする時にクラシックコンサートの音源をリファレンスにしても…という話です。)

リファレンスとする楽曲を読み込んだら、オーディオインターフェースあるいはアンプ等のボリュームを絞ってモニタースピーカー(あるいはヘッドホン)から音を出ないようにします。

そしたらVUメーターを表示し、再生してみます。(モニターからは音は出ない設定のまま。)

RMS値(AES-17基準)が大体-10dBFSの楽曲をリファレンスにした場合のボリューム調整の例

最近の楽曲の場合はおそらく針が右に振りきれてピクリとも動かない状態になるでしょう。

ここで、リファレンスを読み込んだチャンネルのフェーダーを下げて音量を小さくしていきます。

すると次第にVUメーターの針が動き始めますので、0VU付近で動くような位置を探してフェーダーの位置を決めます。

Michael Jacksonの1992年の楽曲”Jam”。POPSの中ではダイナミックレンジがとても広い楽曲です。最高!

比較的ダイナミックレンジの広い楽曲をリファレンスとする場合は、楽曲の中で一番大きな音量の部分の時に針がちょうど一番右側(+3VU)に振りきれるくらいに合わせるといいと思います。

リファレンストラックのあるチャンネルのフェーダーの位置が決まったら今度はモニターの音量、つまりスピーカーやヘッドホンから流れる音量を自分が気持ち良く聴けるところまで上げていきます。

最初に下げたオーディオインターフェースやアンプの音量を上げていくということです。

どのくらいモニター音量を上げるのかは基本的に好みで判断してオッケー。「カッコイイ!」と思える音量にして下さい。あんまし爆音にすると、耳が疲れちゃうと思うけどね笑

いい感じの音量が決まりましたか?決まったら導入完了です!

手順3.ミックスする!

VUメーターを導入したら、あとはミックスするだけ!

カッコイイと思う音にしてみてください。自然にVUメーターの0VU付近を中心に針が動くはずです。

この曲のVUメーターはこんな感じ。音が無いと針の動きが早送りみたい笑 ちなみにSlate DigitalのVMRはVCCのみです。

いや出来ない!ヒントが欲しい!っていう方のために先人のアドバイスを探すと…

昔タモリ倶楽部で「コンソールでミキシングに挑戦」という回でエンジニアの内沼映二さんが出演者にアドバイスしていた「ベースだけ鳴っている時にVUメーターが-5だか-6VU付近を指している状態で、その他を足した時に0VU付近になるようにするとバランスが取れる」みたいな話(うろおぼえ)があったと思います。

これと似たような話は海外でも幾つか見かけて、「キックだけで-3辺りになるようにする」とかいう話もありました。

本当にミックス自体が初めての人は一つの目安として試してみてもいいのではないでしょうか?

似たようなアドバイスをワタクシ的にもするとしたら…ドラムとベースだけで鳴らした時に-5〜0VUの間を針が振れるように狙ったら良い感じになるような気がします。

ただ、こういうのはあくまでも全く手がかりがないマジな初心者用のアドバイスだと思うので、これを全てのミックスに当てはめないように注意したほうが良いです。ジャンルによっても作法というか好まれるバランスは様々ですし。

ちゃんと「聴いて」カッコイイか判断するのが鉄則ですな。

あとはドラムやギター、その他上モノなど、各楽器をバス(AUX)でまとめる手法も有効だと思います。

ドラムだけ下げたり、ギターだけ上げたり、コーラスだけ下げたり…バスでまとめてれば各チャンネル全部調整するより圧倒的に簡単。

ま、そこらへんはさ、自分のやりやすいようにやりゃーいいんじゃない!?

結局、重要なのはちゃんと聴くこと

さて、ここまで書いてみましたが結局これってモニター音量をきめているだけなんですよね。

人間の聴覚は音量によって感じる周波数のバランスが変わるという特性があるというので、カッコイイと思える最終的な再生音量を先に決めといて、それを目指してミックスしていこう。というコンセプトなんです。

なので、ミックスの最中にVUメーター(その他アナライザー類も同じく)を常に眺めて「この範囲に収めよう」という考えでは良い結果は期待できなくて、モニターの音量が決まったら基本的に自分の思うままにミックスするのが良いのではないでしょうかね。

別にモニターの音量を決めるためにVUメーターを使う必要は無くて、最近では有名なマスタリングエンジニアのBob Katzの提唱するK-system等でモニター音量を設定する方法などもあります。

ただ、個人的にVUメーターの針の動きが好きなのと、導入に良い思い出があるのでオススメしました。

ちなみにミックスの途中で「やっぱりもうちょっとモニター音量上げたいな」とか「ちょっとウルサイかも」って場合は上げたり下げたりして良いと思います。大事なのは調度良い音量で作業することですね。

でも長時間作業していると音量を上げたくなる傾向になると思うので、一度休憩を取って耳をリセットさせることも重要かもしれません。場所によっては近所迷惑にもなりかねないし。。

まあ、そんな感じで是非楽しいミックスライフを送って下さい。

耳は大切にね!

(終)